1969年に松竹が手掛けた作品で、脚本には森崎東と山田洋次が名を連ねています。監督は山田洋次が担当しました。　　この映画の原作は藤原審爾の『三文大将』です。山田洋次の作品というよりも、森崎氏の個性が際立つ、非常に風変わりな作品となっています。こんな独創的な映画が製作可能だったのか、と唸るほどの強い作家性を持った映画で、ジャンルは喜劇とされていますが、話の進み方は予想を後押しするものでした。ハナ肇がブルート、倍賞千恵子がオリーブ、谷啓がポパイに見立てられ、人情喜劇として展開すると宣伝されていますが、決してそのようには捉えられませんでした。　　冒頭から森崎氏独特のスタイルが続きます。おばあさん（武智豊子）がバスに乗ろうとして、よろよろと駆けてきます。それに対し、バスガイド指導員のツル代（倍賞千恵子）が、「墓場ゆきですよ！」と案内します。おばあさん相手に「墓場」「墓場」と、遠慮なく言葉がぶつけられます。　　貧乏長屋に住むおじさんたち四人（田武謙三、桑山正一、佐山俊二、佐藤蛾次郎）は、カラーテレビが入っていると言われるダンボール箱を持ってバスに乗り込みます。ガイドはツル代（倍賞）ですが、新人ガイドの指導役も兼ねているため、このバスには二人のガイドがいます。焼き場で降りようとした際、男たちは箱を落としてしまい、中から死体の足が飛び出し、一同驚愕します。　　貧乏長屋の男たちは、仲間の若者であるウマ（いかりや長介、写真のみの出演）がフグの毒にあたって死亡したため、無縁仏として火葬しました。しかし、役場の保健局に務める左門（谷啓）が用意した棺桶代を酒代に変えて宴会を開きます！この貧乏人の宴会は、まさに森崎流のバーレスクです。　　そこに、ヒゲ面の男（ハナ肇）が現れます。この男はウマの友人で、ボルネオから帰ったばかりの暴れん坊です。事情を知ったヒゲ男は、ウマを見殺しにしたと激怒します。そして、ただただうろたえる共同体の弱くて無責任な男たちと、酔って理不尽に暴れる外部者＝エイリアンの構図が展開されます。　　ヒゲ男は、ウマの骨をすり鉢で粉にし、水と醤油を加え、男たちに無理やり飲ませてしまいます（これはまさに、森崎さんの独自の世界観！）。逃げ惑う男たち。暴れるハナは長屋を破壊し、大パニックが起こります。谷啓が演じる心臓が悪いという左門は、ただオロオロするばかり。これは喜劇というよりも怪奇劇ですね。森崎さんが脚本・監督を務めた怪作『生まれかわった為五郎』でも、ハナ肇が尿を飲むシーンがありましたが、それに匹敵する強い作風です。　　ハナ肇は結局、名前が最後まで明かされず、皆から「御大（おんたい）」と呼ばれています。この迷惑者を追い出そうとする住人たちの計画は全て失敗し、混乱はさらにエスカレートしていきます。　　気の強いツル代も長屋の住人ですが、夫は刑務所に入っているらしく赤ん坊を抱えていて、後家状態です。気の弱い左門に頼っていますが、まだ夫の籍に入っているため、左門との結婚はできません。　　暴れ者の御大は誰からも同情されることなく、最後まで迷惑者として終わります。　　ツル代に惚れた御大が傷害保険を目当てに工事現場から飛び降ります。その意図を察した門は止めようとして、御大の下敷きとなり、命を失います。通夜の席で、御大は死人を棺桶から引きずり出し、一緒に踊りますが、死人は息を吹き返します。しかし、御大はそれに気づかず、長屋を出ていきます。このあたりの奇怪な死人との踊りやドタバタの描写も、森崎さんらしい独自の世界観です。　　ツル代にプロポーズした左門は、ツル代に「籍がまだ……」と言われ、失望して乞食同然の生活になります。　　最後は廃バスで眠っていた左門と、それをトレーラーで潰した御大が再会し、再会を祝して白い砂をかけ合いながら喧嘩をするロングショットで終わります。　　本当に、信じられない作品でした。（2001年9月）