川島雄三監督が若尾文子を主演に描いた代表的作品がDVDとして登場します。寺の襖絵師の愛人である里子の魅惑的な肉体に惹かれた住職は、襖絵師の死後に彼女を囲うことにします。ここでは、男女の情熱的な愛と、彼らの姿を垣間見る少年僧の歪んだ愛憎劇が繰り広げられます。原作は水上勉による直木賞を受賞した作品です。 やっちゃ場の女、ふうてん老人日記、爛(ただれ)、その夜は忘れない、家庭の事情、雁の寺、しとやかな獣たちの計7作品は、若尾文子が29歳の時に主演したもので、邦画の最盛期である1962年のわずか一年間に制作されました。作品名を挙げるだけでも、その時代の勢いに圧倒され、改めて感動を覚えます。現在の人気女優を同じように一年間でこれほどの映画に主演させることは夢のまた夢でしょう。(小津安二郎の遺作「秋刀魚の味」も1962年公開です) 若尾は1960年代末の邦画の衰退期まで、30代半ばを過ぎても主演女優として活躍を続けましたが、1962年は彼女のキャリアにおいて頂点といえる年でした。彼女の圧倒的な「美貌と色香」を忘れないことが重要です。当時、多くの男性観客が若尾文子を目当てに劇場に足を運び、「こんな女性なら寿命が縮んでもいいかもしれない」と思いながら鑑賞していたことでしょう。 本作品は、水上勉のベストセラー小説を川島雄三監督と脚本の新藤兼人が巧みに脚色したもので、若尾の主演なくしては成し得なかった深い「情」が、日本の映画プロフェッショナルたちの確かな技術によって、見事にフィルムに刻まれた逸品です。気楽に勧められる作品ではありませんが、重厚な映画を好まれる方にはぜひ観ていただきたい作品です。(ただし、重厚さは松竹ヌーベルバーグが見せるような政治的プロパガンダとは異なります)。若尾ばかりを取り上げましたが、いつもながら清冽な印象を残す木村功ほか、多くの見所もあります。
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